<テクノロジー>


 静止画や動画を対象とした様々なクリエーター(写真家、デザイナー、製版・印刷業など)に要求される資質や能力はどの「立ち位置」に立つかで自ずと決まってくる。特に色彩に関する限り業界規格や画像制作テクニックに縛られることが多い。

 画像が創作から最終工程に至るプロセスにおいても多くのクリエーターが関わりを持ち、それぞれのポジションで十分に使命を果たすことが求められる。勿論、プロセスの流れにおいて、上下関係などという優劣はなく、どのプロセスにおいても対等に扱われなければならないことは言うまでもないが、使命を全うするためには、そのポジションにおいてそれ相応の技量(技術力と技能力)が必要である。

しかしながら技量というものは突然身につくわけではなく、普段から精進していくことによって初めて培われるものである。

その手段として基礎的な技術や学問を身につけることが必要であるか、あるいは必要でないかの判断は、全く個人の自由意思で決まるもで、傍から強要されるものでは決してないのである。

 ここに記載された「テクノロジー」の内容は、本当にクリエーター自身が必要と感じたものを選び、活用できる環境を与えることを目的にしたものである。従って、自身にとって必要と思われるものだけを選択して活用することを期待したい。

また、不足した資料があれば必要に応じて可能な限り追加していく所存ですので、適宜申し入れして頂くことを希望します。

 なお、ここに記載されている資料はWeb上からダイレクトに引用したものも含まれていますので、個人で活用することを前提にして頂きたい。(掲載される資料は単独で作成したものですが、筆者自身の成果として発表したり、論文などとして関係機関に公開するものではなく、全く個人の技量を醸成するために作成したものですので、このことを理解して頂けることを切にお願いします。)


色は深遠で学術要素が微妙に絡み合っている(理論的な裏付け)

カラーマネージメントシステムと学術体系

  カラーマネージメントの詳細を説明する前に、カラーマネージメントシステムとそれに関連する学術体系について簡単に説明する。

 そもそも「カラーマネージメント」は、学術専門分野としてはその実体が確立していない。

  左図は、カラーマネージメントシステム(英語略:CMS)に関連した主な専門技術を示している。

 この中でも特に色彩工学と色再現工学が最も強い関連を持っている重要な学術分野である。

 従って、カラーマネージメントシステムを理解したり、画像処理上問題になる項目を解決するために、基本的にはこれらの分野を極める必要がある。しかし、現実的は、カラーマネージメントシステムを必要とする教育機関や写真映像に関わる業界では、研究開発やソフト開発などを行っている会社・機関など以外では殆ど顧みられることはないのが実情である。写真映像に関わるあらゆる人達がこのことを理解していないように見受けられるが、これらに関する発展は少なからず基礎理論の助けを借りなければ決して成り立たないのである。

 写真映像を扱う場合、写真表現と写真技術がポイントとなる。写真表現は、いわば写真家として画像を創生するあらゆるテクニックを指す。つまり、写真家の腕前というか個人に備わった技量である。一方、写真技術というは、多くの写真家が殆ど顧みられない、どちらかと言えば敬遠されるテクニック(理論的、学術的)である。しかし、先に強調したようにデジタルに関わる問題は、カラーマネージメントシステムに関連する基礎的な知識なくして課題をクリア出来ないことが多々あることを良く理解しなければならない。


不具合には明確な根拠があり、ほぼ解決できる(問題解決能力の醸成)

 

 セミナや大学の講義などで「何故、入力と出力の色が合わないのか?」という質問をされることがある。実はこれこそがカラーマネージメントの必要性を如実に示す例である。

つまり、多くの問題は色の根源(色とは何か?)とデバイスやマテリアルが表現できる色がどの領域まで可能か?という本質的要因を理解していないことに起因していると考えている。

 色は、①光源(照明光)が持つスペクトル分布、②物体が元々持っている色(物体色、光源色)及び③人間の目が感知する色(色覚)の3つの色で「真の色」(最終的に色として認識した色)が創生されたことになる。

 しかし、デバイスやマテリアルの個体差(色域が異なっているという意味)だけではなく、測定器そのものが誤差を含んでいることを意外と知らない人が多く存在しているのが現実である。(測定器は誤差なく測れるという思い込み=「誤差がなしで測れる」という論述は物理法則から観て無理な話である)

それに、実行者の問題もある。それは、①知識経験の欠如、②誤用や操作ミス、③機器の調整不良、④デバイスの選定不適切(不十分)などが主な要因となっているからである。

 画像提供のプロセスは、おおざっぱにみると①写真撮影~データ作成、②デザイン・製版(色変換、画像修正など)③印刷となる。

写真家(スタジオ、会社を含む)がどのプロセスまで実行するか?あるいは出来るか?によって要求されるスキルや知識経験などが違ってくるが、いずれにしてもその「立ち位置」(どのレベル)に求められる知識経験や技能が大きく変わってくる。(重要なことは、立ち位置によって、要求される知識経験が違うので、それに合致したしたものを持てば良い。)

 なお、この問題の解決策については、上図に示しましたので参考になれば幸甚です。この中で何が重要かとかどんな手順のアプローチが適切かということはケースバイケースなので(一言では言えませんので)機会があれば「テーマを絞って」議論したいと考えています。


アナログとデジタルで、どれが主流となり得るのか?(最適な技術手段の選択)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 概ね2000年以降は、完全なるデジタル時代といっても過言ではないように考えている。その後約20年経った現在では、すっかりデジタルが凌駕して、まさにデジタル全盛の時代といえるようになった。

そしてコンピュータグラフィックスやバーチャルリアルティあるいはAI(人工知能)などが時代の寵児として発展を遂げている。

 よく「デジタルがアナログを超えた(凌駕した)」と主張している人を散見するが、本当にそうと言えるのだろうか?

 図に示したように、撮影された画像はデジタルカメラによってアナログからデジタルに変換され、画像提供のプロセスに沿って処理されていく。しかし、デジタル(計数値、離散型)はアナログ(計量値、連続型)を基本としているものであるので、元画像をどれだけ微細に分割(サンプリング)したかによって、画像の精度(階調性や鮮鋭度など)に多大な影響を与える。それに撮像素子(CCDやCMOS)というものは画素単位(ビット、ピクセル、ボクセル)でかつ、色成分の検知ができないので、色フィルターなどを駆使して三原色(RGBまたはCMY)に分版しなければならない。そのために画像合成する過程での誤差成分が最終画像の品位に影響を与えることになる。

 一方、アナログデータは、連続量なので離散した画素とは異なり実に多様な画像形成を可能にしている。例えば、カラーフィルムでいうと、粒子の大きさが一定ではなくバラバラでしかも不規則(格子状でない)に配置されている。このために粒子の配置によって多様な画像形成を可能にして、いわゆる味のある画像に仕上げられる。だからと言って、アナログは欠点もあるので絶対有利ということができず、アナログとデジタルの優劣はなく同等で差がないと考えるのが相当である。(デジタルは飛び飛びの値だが、サンプリングが適正であれば科学的にみてアナログと同等=同値であるとみなすことができる) 一方、画像を形成するデータは、別の見方をすれば、デジタルとアナログは「別物」であり比較してもあまり意味のない(しょうがない)ものと考えるのも妥当であると言えよう。


画像情報は色々なデータをあるので、効果的に活用する(データから情報収集)

 

<色々な情報の詰まったデータの活用>

 静止画や動画に拘わらず可視化されたデータには文字や数字で表した形式(数値データ)  

 であれ、図示した形式(画像データ)であれ見方(切り口)を変えれば多くの情報を持って

 いるものである。

 左図は、三次元の色空間を示したもであるがこの図には色々な情報が隠れている。

XYZ色空間:人間の視覚を織り込んが色情報で本来X,Y,Zの三次元空間(CIE XYZ)で表さ  

 れる。 色空間作成の基本となっており、L*a*b*色空間(最も人間にマッチした均等色空間)

 は、このCIE XYZ 色空間を基にして作成されたもである。

知覚色空間:空間周波数(波長)のLong(L=長波長), Middle(M=中波長), Short(S=短波長)

                           で表現される領域の色空間であり、人間の等色関数から導出されている。

                              ③XY色度図:釣鐘又はヨットの帆の形状をした部分だけを抽出して表現したものが色度図である。

                                                        三次元から二次元に変換。明るさ(明度)の表現はできない。XYを色度と呼ぶ。

   この図から分かる情報は、色度図はBlack-White(明度)の変化によって、表現できる色の領域が変化することを表している。つまり、WhiteからBlackに移行するにつれて、次第に色表現の領域(色域)が小さくなっていくことを意味している。究極的な色はBlackで一点に集中して無彩色(色成分が存在しない)の黒になる。例えばモニタで考えると、通常仕事で使われている輝度はせいぜい50%位から多くても70%程度であるので、モニタで見られる色はかなり減少していることが理解できる。ちなみに、モニタやプリンタのカタログを見ると色域を色度図で表示される例が大多数であるが、このデータは輝度100%であることに注意が必要である。(実際の作業で使っている色域はせいぜい50%程度の輝度領域になるので表現できる色空間はとても小さいことが分かる)

 この例で示したように、普段何気なく見ている図表を精査すると、とても多くの情報が潜んでいることを理解して、「賢い色の管理者」であることを期待して止みません。


色覚や認知は外界からの刺激で起こる(知覚過程の学習と認識)

 

 色を理解するには人間の脳の働きを知る必要がある。例えば人間の思考形態の過程は左図のようになっている。問題が発生する(窮地に落ちる)と集中力が働き更に前に進むか、そこで思考停止させるかの判断をする。「進む」を選ぶとそれに対する意識の変化が起こり、問題解決に向かう。究極的にはその原因を把握することになるが、この時に不可欠なのが、感(勘)と経験や知識技能である。このことは、絵を感賞したり文字を読む、あるいは創造する場合にも起こることである。物事を見極めようとするとそこに集中力が働き真意を見極められるようになる。

 

 色の認識メカニズムは、左図上側に示す通りである。つまり、物体(固体や気体を問わず)が持つ色は光源からの光照射を受けて、その物体に固有の色を発する(明暗とカラー情報として)。

ただここで考えるべきことは、光源が持つ輝線スペクトルによって本来の色を100%出せないことである。だから知っての通り、撮影の際に光源をどれにするかが重要なファクタだとみなされている。

 次に、物体から発せられた色は、人間の目に入る。ここでは網膜の部分に色成分を検知する「錐体」と輝度成分を感知する「桿体」が配置されており、その両方の色検知センサー(細胞体=視細胞)によって初めて色として検知される(この過程ではまだ色として認識されない)。

 網膜で得た色情報は色信号(脳に備わる信号処理回路網)として視神経を経由して脳(大脳視覚野)に送信され、そこで初めて色として認識(弁別)される(色覚、知覚)。

  一方、概念的にみると上述した通りであるが、結構抽象的であり現在多用されている色空間、即ちL*a*b*色空間に置換した場合のつながりが良く理解できない。それを補強すると上図下側に注目すれば、光の「強度」ファクタに置換される。つまり、色成分のLMS(三刺激値と同義)と輝度成分のV(Value=明度と同義)によって形成された色情報を三原色説と反対色説を伴う段階説に従って色知覚され「明度」「彩度」「色相」の三属性をもって正しい色として認識(弁別)される。

人間工学的、デザイン工学的な感覚を適応させる(多様なセンスの応用)

 

 カラーマネージメントシステムを理解し、レタッチソフトなどを駆使して画像(コンテンツ)を制作したとすると、制作者本人が恣意的に満足しても果たしてそれで顧客要求を満足させられるだろうか?特にコマーシャルのコンテンツを想定すると恐らく満足しないレベルになっていることが多々あるのではないかと想定できる。

 従って大変重要なことは、コンテンツを制作する場合、通常のルーチンワークから少し目線をずらし、デザイン的感覚や人間工学的な視点から思考を働かせ、それらを実用面に応用していく必要がある。

例えば、撮影する構図を考えてみると、目的ありきで考えれば左図のどの構図を選べば良いか考えなければならない(構図はこれだけではないが)。さらに、見る人の目線をコンテンツの中のどこに向けさせたら良いかも考える必要がある。このように色々なシチュエーションに際して制作者はどうしたら良いかを的確に考えるのがプロとして信頼されるようになるものと確信している。

他にも、色調和に必要な同化現象や対比現象などの知識を取り入れたり、色彩心理を応用したり、デザイナーが多用しているマンセル表色系を取り入れて人間の感覚に近い彩色原理に沿って色相-彩度-明度というファクターで捉えることを基調としてそれらをコンテンツに反映させることがより良い結果を生むものと考えている。さらに、誘目性や視認性に着目した彩色や色の配置などを考慮する必要もあり、最近注目されている色覚異常者のために彼らが認識しやすい色を採用したデザインなどをもっと積極的に取り入れていくべきことが課題となる。

デザイン、視覚機能、色彩心理などは人間の五感であるから個人のセンスによるものと諦めがち(問題意識を持たない)だが、実際には結構科学的な根拠を持ち、理論的にも確立された原理原則が多く存在していることを理解すべきである。そこで、センスがないと思っている人でもこれら理論的に裏付け・証明されたテクニックを大いに活用して欲しい。

 

色彩心理を意識したトータルバランスを考慮する(画像評価の構築と実践)

 

 画像を正しく評価することの重要性はあまり認識されていないように思える。普段からもっと問題意識を持って対処すべきと考えるが如何なものであろうか?

 撮影を良く見ているとマクベスカラーチャートを使っているカメラマンを見かけることがあるが、この時色合わせしている色がなんと三原色(RGBかCMY)を基調として使っていることが多いのには些か脅かされてしまう。

三原色に合わせてもあまり効果がないのは、自然界には純色である三原色が殆ど存在しない色なのでそれに合わせても意味がないのである。せっかく色を合わせ込むのなら、マクベスチャートの中間調(原色以外の色)にすべきである。さらに、評価というと直ぐに色深度(8bit,16bitなど)がどうの、ホワイトバランス、グレーバランスがどうのなど、本質から外れたことを気にするがこれらを意識するのは当然のこととして、画像に要求される最も重要な要因である客観的な評価をないがしろにしてしまう傾向がある。しかし、フィルムの時代から現在においても「画像バランス」を意識した評価が重要であることはすでに知られていることである。「良い画像」(美しい画像)を作るためには、「階調性」、「色再現性」、「鮮鋭性」、「粒状性」、「光源依存性」、「ノイズ性」及び「光沢」(写真の場合のみ)に関する項目を織り込んで評価すべきである。どの要素を重視するかはトータル的に考えることが重要で、究極的にはどうすれば顧客要求を満足させられるかという観点で捉えるのが良い。

トータルイメージクリエーションの実践(画像の創造)

 ここで最も主張したいことは、カラーマネージメントシステム(CMS)だけを理解することではない。CMSは画像形成の単なる基本ルールに過ぎずどんなジャンルの人も守るべきもので、取り立てて言うべき性質ではない(現時点では、CMSはあまり意識しなくてもデフォルト設定で最低限度のルールの適用がなされるので仮に忘れても何とか処理される仕組みになっている)。むしろ非常に重要なことは、「恣意的な色を創造する」ことであるが、そのためには何をすべきかである。さらに、仮に得られた画像が完全に恣意的なものであっても、果たして顧客要求を満足させるコンテンツになっているかどうかである。これを考えるとコンテンツの制作に当たり何をよりどころにすべきかは、明確である。それはやはり「トータルイメージクリエーション」を実践することが最も近道であるように思える。

そもそもトータルイメージクリエーションと何かといえば、次のとおりである。

上図は、CMSの基本的な概念とそれから必然的に派生するデジタルイメージングの世界(トータルイメージクリエーション:Total Image Creation、略してTIC、要するにCMSを順守すれば、なんでもありの世界)を示している。このようなカラーマネージメントシステムに関する新しい概念の標準化を推進することによって、文字や映像と同様に扱われる画像情報の1つを成している顧客が要求する「カラー」(色彩)を正確に相手に伝えるということが初めて実現できるようになる。

 最近ではインターネットなどを経由して、多くの人々に伝えられるカラーを含む情報(写真、CG、動画など)が主流となってきたが、使用される画像が全て同じカラーとして歪曲することなく伝えられる可能性が極めて大きくなったと言える。(現状では、ネット上で色の不一致が社会問題になっているが、これもTICの確立・適用によって可能となる)

    近年カラーマネージメントシステムという範疇を含めたイメージクリエーションという概念が芽生えてきており、いわゆる「管理(マネージメント)の時代」から「創造(クリエーション)の時代」に移行する機運がますます高まってきた。つまり、CMSだけではもはや色に関する全般的な解決が難しくなったこともあり、これからは高い理念と優れた技術手段によってカバー出来るようになると考えられる。(究極の目的である「コンテンツの恣意的な色創り」の実現 そういった意味で、近い将来、トータルイメージクリエーション (TIC) が現行システムの源流となっているCMSに取って代わることものと想定している。

 従って、それには第一に、関連する企業の技術対応とシステム構築が不可欠であり、各メーカーが主導となり真剣に取り組んでいくことによって、次世代の映像文化が花開き産業の基盤となるべき映像の世界が大いに発展されていくであろう。

   上述したようにTICが対象とするものは、光源などの初期設定から画像撮影や画像処理を経てプリントアウトに至るプロセスを全てカバーし、顧客(クライアント)が満足できる画像(コンテンツ)を提供することにある。理想的な色の創造(思い通りの色創り)を可能するために、TICを実現できるあらゆる手段をそれぞれ関連する企業の中から企画・提案・開発されていくことが今後の課題となることは間違いのないことであろう。